この本は全三十一章、いずれもロシア人ギリャロフスキーがロシア人のために書いたロシア人の話である。それがかえってわれわれ非ロシア人に鮮明なロシア人の映像を与えてくれるのは、名作の妙というべきであろう。そこには非ロシア人の場当り的なロシア人解説など軽く笑いとばす、ある種の明朗ささえある。
この種の作品は、いわば固有名詞の羅列の本である。したがって、固有名詞をそのまま片仮名で表記していくと片仮名の羅列に終始し、電文か暗号文の趣を呈するおそれがある。そのため、町名は翻訳して、各章ごとにはじめて出てくるものについてのみ片仮名でロシア語の発音どおりのルビをふった(地図は例外)。ただし人名、地名に由来する町名は、その人名または地名を記してルビをふってない。もちろん慣用に従ったものや、読者の混乱を避けるために統一を図った例外もある。翻訳のテキストは、モスクワ労働者出版所、一九六八年刊の単行本。
なおこの『モスクワとモスクワっ子』は、中公文庫『帝政末期のモスクワ』(一九九〇年刊)を全面改訂したものである。サブタイトル(「ロシア帝政末期の光と影」)は訳者がつけ加えた。(訳者あとがきより)
モスクワとモスクワっ子(全): ―ロシア帝政末期の光と影
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