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 本書は、一九八三年二月から九一年三月までの八年間、早稲田大学名誉教授の安井亮平先生が朝日新聞の夕刊に寄稿したコラム「海外文化」を全て集録したものである(ただし「ブブノワさんというひと」のみ公明新聞に寄稿)。
 この時期は、穿った見方をするなら、ソ連崩壊のカウントダウンが始まった時代とも言えるが、長く続いた停滞の時代が終わりを告げ、ペレストロイカの新風が吹き抜けた時代でもある。その歴史の渦中で、生き方を手探りで模索するロシアの人々を鮮やかに活写するその筆力と観察力は、文字数の制約を軽々と乗り越えている。それゆえ一読するだけで、時代の息吹きが、今もなお、生き生きと伝わってくるのである。書評という枠組みを越えて、時代を写す鏡としての機能を今も失っていないのは、文学研究に生涯を捧げた筆者のまさに労作業のおかげである。このコラム群が、ソ連末期を見直すための一級の資料としての価値を、今もなお保ち続けているのは間違いない。
 思えば、その性質上、単発になりがちのコラムが、一人の人間によって、百五十回以上も続いたのは驚異的である。どの記事も読み応えがあるが、特にスターリン時代に迫害・粛清された作家や芸術家たちの真実が、ペレストロイカの時代に次々と暴かれていくくだりは、白眉である。その意味で本書は、貴重な文化史の資料というだけでなく、二十世紀ロシアを照らす知の遺産ともなっている。電子書籍という形態ではあるが、本書が再び多くの読者の目に触れることに、喜びを禁じ得ない。ロシア文学研究の徒だけでなく、ロシアと真剣に向き合おうとする全ての人々が、本書を手にされ、歴史の真実に触れられんことを願うものである。

ソ連文芸クロニクル PDF版

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